近年、「感じのよさ」や「気づかい」がこれまで以上に注目されるようになっていると感じています。
これには、おそらく社会全体の大きな変化が背景にあるのでしょう。
今や、セルフレジやモバイルオーダー、QRコードでの注文といった仕組みが当たり前になり、飲食店やホテル、小売店などのサービス現場では、人と接する機会そのものが以前より格段に減っています。
人手不足は深刻で、接客を合理化するための仕組みづくりが急速に広がっているのだと推察できます。
もちろん、これらの仕組みは利便性を高め、生産性を上げるというメリットがあります。
しかしその一方で、だからこそ、人からでなければ味わえない心地よさ、感じよさが以前より強く評価される時代になった と言えると思うのです。
飲食店で気づいた、同じ「NO」でも心に残る差

選ばれるお店・企業・組織には共通して、 「ちょっとしたひと言に温度がある」 「相手を思った伝え方ができる」という特徴があります。
仕組みと効率が整った世界だからこそ、今こそ感情を扱うコミュニケーション力が差異化になる時代だと思えてならないのです。
これは、研修帰りに立ち寄った都内の飲食店での光景です。
1階はテイクアウト、2階が飲食スペースというつくりでした。
食事を終えて階段を下りようとしたとき、デリバリースタッフの男性が息を切らしながら階段を上がってきました。
その瞬間、少し年配のスタッフさんが強めの声でこう言いました。
「配達の方?ここじゃないですよ!」
間違えて上がってきたのは事実です。
でも、急いで階段を上ってきた彼の様子を思うと、胸が少しチクっと痛みました。
ところが、その感情はすぐに変わりました。
別のご年配スタッフさんが近づき、柔らかい声でこう伝えたからです。
「一緒に下まで行きましょう。外のインターホンの場所、教えますね。次からは押していただければ大丈夫。上まで来るの、大変でしたよね。」
同じ内容を伝えているのに、この差は大きいと感じました。
これは単なる性格の違いではなく、「相手視点に立てるかどうか」という認知の違いです。
組織にもある「ルール優先」と「相手配慮」の構図

この飲食店での二つの対応は、実は組織の中にもよくある構図です。
例えば、社内チャットに届いた報告が決まったフォーマットになっていなかったとき、あなたならどちらで返しますか?
「決まったフォーマットに入っていないよ。」
それとも 「ありがとう。この報告、みんなで共有したいから、決まったフォーマットでもう一度もらえる?」
同じことを伝えているのに、受け手の気持ちはまったく違います。
現代の組織では、後者のような「感じのいい伝え方」ができる人が信頼され、「一緒に働きたい」と思われる存在になっていきます。
これは単なる優しさではなく、現代的なリーダーシップに必要なスキルと言っても過言ではありません。
現代の組織で求められる「感じのいいコミュニケーション」

今では、SlackやNotion、Teamsなど、非対面・非同期のコミュニケーションが当たり前になりました。
その環境では、「場の空気」や「暗黙の了解」は期待できません。
だからこそ、意識的に「気づかいを言語化する力」が求められています。
コミュニケーションは「伝えた」で終わりではありません。
「どう伝わったか」まで責任を持つ時代に変わってきています。
キーワードは「認知的共感」と「感情設計」

心理学では、ビジネス場面で重要な力として「認知的共感(Cognitive Empathy)」が注目されています。
これは、「相手が今どう感じているか」「次に何を求めているか」を推測する力のことです。
飲食店の後者のスタッフさんはまさにその力を発揮していました。
- 階段を上ってきた労力
- どこに行けばいいか分からない戸惑い
- 道を間違えたかもしれない不安
こうした感情を瞬時に読み取り、それに合った言葉を返していたのです。
これは営業やマネジメント、カスタマーサクセスなど、あらゆる職種に共通する大切なスキルです。
「感じのよさ」とは単なる人当たりの良さではなく、「相手を正しく認知する力」に裏打ちされたビジネススキルなのです。
まとめ:これからの組織に必要なのは「余白のひと言」

今回の出来事から、あらためてこう感じました。
「ここじゃないですよ」と伝えるだけなら誰にでもできます。
でもそこに、「上まで上がってきてくれてありがとうございます」というひと言を添えられるかどうか。
その小さな「余白」が、これからの組織に求められる質をつくります。
相手を正しく認知し、感情まで設計できる人がいる組織は、自然と雰囲気も生産性もよくなります。
その積み重ねこそが、チームの信頼関係をつくり、「この人と働きたい」と思われる存在につながっていくのだと信じています。

